散居村の客観的価値づけを目指し「となみ野散居村サステナブル推進協議会」発足 

2024.12.26 / 散居村保全活動

2024年11月28日、北陸の冬らしいみぞれ混じりの夜、散居村ミュージアムには多くの人が集まっていました。
行われたのは「となみ野散居村サステナブル推進協議会設立総会」。

散居村の『文化的景観』や『自然共生サイト』への登録、さらには世界遺産への登録も念頭に、散居村の客観的な価値づけを目指して組織された協議会設立の会合です。

リジェネラティブ・ツーリズムを推進する楽土庵の取り組みは、『散居村の保全・活用につなげる「再生型旅行」実証実験』として観光庁の「サステナブルな観光コンテンツ強化モデル事業」に採択(2022年度~2024年度)。民間団体や行政、金融機関などが集う関係者会議の実施や、CE(サーキュラー・エコノミー)やモダン・ラグジュアリー、文化的景観といった文化財の枠組みについて学ぶ地域向けのセミナーを行ってきました。

そうして会議を重ねるなかで、個人的な努力による維持には限界があることを再認識。「客観的な価値づけをしていくためにも、推進母体が必要だ」と地域の方から意見をいただき、この度の協議会を立ち上げることになりました。

協議会にはこれまでの参加者に加え、新たな地域のプレイヤーであるPLAY EARTH PARKの木村代表や、経済界からも砺波市商工会議所の米原会頭、散居村セミナーに登壇いただいた服飾史家の中野香織さん、カイニョミックス精油を新宿のSPAでお使いいただいている梶川貴子さんなど新たなメンバーも加わり、総勢34名が参加しています。

「ここほど素晴らしいところはないと感じてきた」

「これほど多くの方にご参加いたけることを驚きとともに大変嬉しく思っています」と(株)水と匠の代表であり、楽土庵と杜人舎のプロデューサーである林口。

総会ではまず、昨年に引き続き、楽土庵の宿泊費を散居村保全活動に当てる寄付金が林口よりカイニョお手入れ支援隊の松田さんへと渡され、続いて協議会の会長である新藤正夫さんからの挨拶がありました。

「この度は協議会を設立できることになり、ほんとうにありがとうございます。私は1933年に生まれ、今でも散村のぽつんと一軒家に住まいしています。朝起きるとまず家の周りをぐるりと周り、屋敷林の木々を眺める暮らしをこれまで続けてまいりました。

砺波平野の散居村は全国の中でももっとも広く特徴的で、地理学歴史学の世界では大変多くの論文が書かれてきています。私自身地理学を学んでき、調査や観光で世界各地の散村に行ってきたなかで、ここほど素晴らしいところはないと感じてきました。

戦後は全国に先駆けての圃場整備や耕運機の普及から、日本有数の豊かな農村になった散居村ですが、昨今は少子高齢化を始め状況が変化し、地域の活力が失われつつあります。土地にあるものの素晴らしさを後世にどう伝えていけるか、これからの活動に大いに期待しています」

リジェネラティブ・ツーリズムを構築するこれまでの取り組み

続いて楽土庵を拠点とするこれまでの活動について、林口から概要を紹介させていただきました。

観光コンテンツの造成と提供に関しては、楽土庵を拠点に、地域の文化を深く知る様々なアクティビティを造成、国内外の旅行社を通じて販売。「越中いさみ太鼓体験」や「大門素麺づくり体験」、「光圓寺で書道体験」といった体験が特に人気で、この体験のために海外から訪れるお客様もいらっしゃいます。

メディア掲載は2年間で国内143媒体、海外133媒体で紹介。宿泊者は4~5割が外国の方で、欧米の方を中心にシンガポールなどアジアの人も増えてきています。

また楽土庵ではオープン当初から宿泊料金の一部を保全活動団体へ寄付する仕組みを構築しており、今年も2回目の寄付金の贈呈をさせていただくことができました。

廃棄されている籾殻にも需要がある

前回のサステナブル会議では「田んぼの法面の景観保全」が課題にとりあげられ、「クラピア」という防草機能を持つ植物を使った実証実験をしていただいていました。こちらについては「多少の手間はかかるが効果は感じられている」ということで、ひきつづき実験が継続されています。

もうひとつ会議体から出てきた課題が「籾殻の廃棄」です。こちらに関しては

「新しい技術を加えた籾殻肥料など活路はあるものの、製造拠点までの運搬に排気ガスが出るため、カーボンニュートラルとの兼ね合いの難しさがある」

「籾殻から抽出するシリカが化粧品に最適だと、世界的大手化粧品メーカーからの大きな需要もありながら、やはり輸送が課題」

「製品化への試作が進んでいるものもある」

といった情報交換がされました。原料としての籾殻の需要はあるということで、今後も引き続き情報共有を行っていきたいと思います。

「文化的景観」申請にむけた調査と機運の情勢

総則など協議会規約の全体を確認した後、議題は今年度の活動についての内容に。今年度と来年度の目標は客観的な価値づけとして、文化庁の「重要文化的景観」と環境省の「自然共生サイト」への登録申請を目指している、といった目標が共有されました。

「重要文化的景観」とは1990年からいわれるようになった新しい文化財の枠組みで、急速な社会の変化のなか、人間と自然との共同作業によって生み出された景観、特に農林水産業に関わる伝統的な生業にもとづいて形成された景観を「文化的景観」として評価する方針が生まれてきました。

特徴は「動態的保存」といって、「仮に近現代に登場した要素であっても風景の維持に必要と評価できるならばそれも大事な要素として保存の対象にできる」こと。史跡としての世界遺産や重要伝統的建造物保存地区など古い形をそのまま残さなければいけないものとは違い、価値を損ねない範囲であれば現代社会に適応するための変化は許容される枠組みになっています。

全国で73件の重要文化的景観が選定されているなか、富山県にはまだひとつもありません。

人間と自然との共同作業によって生み出された景観、特に農林水産業に関わる伝統的な生業にもとづいて形成された景観を「文化的景観」というならば、散居村はまさに日本を代表する文化的景観と考えられます。

実は15年前に既に調査報告書は作成されていたものの、合意形成の難しさから申請が行われなかった、ということがありました。

そこで今改めて、協議会の今年度の目標を調査と研究に設定。富山大学の奥敬一先生に報告書のアップデートや不足を補うためのを社会科学的な調査を進めていただくことになっています。

散居村の「生物多様性」にも客観的な価値づけを

もうひとつ、散居村の客観的価値づけとして考えられているのが環境省の「自然共生サイト」という枠組みです。これは「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のことで、環境省のほうから該当するのではないかと提案をいただきました。

こちらは、森林生態学者の伊勢武史先生にご協力いただき、さっそく3つの調査を開始しています。

1つめは人工衛星写真のAI解析によるこれまでの屋敷林の変化。2つめはモーションキャプチャーやVOR録音機材などを使った生物の空間分布の記録。屋敷林の点在が生物多様性に寄与しているのかを探ります。3つめは屋敷林樹木の炭素蓄積量の推定と、樹木が切られた場合のCO2排出量を数値で示す調査です。

素材剪定から製品化までを体験できるのは稀有なこと

そのほか今年度の活動として、会員同士の散居村についての勉強会や視察、散居村について多言語で紹介するサイトの作成、散居村の資源を活かした商品開発、海外投資家を招いた空き家視察ツアー、現代の生活にあった屋敷林の植樹提案などが共有されました。

カイニョの剪定作業から体験できる「カイニョお手入れサポートツアー」については

「アロマオイルを抽出する植物採集の過程には、知らずのうちに児童労働が行われたり絶滅を引き起こす過剰な採集が行われてしまっていることもある。環境や人権に配慮された原材料のアロマオイルを手にできるのはとても嬉しいこと」

「枝を剪定して、アロマオイルを抽出する作業を体験できる機会はなかなかない。土地からオイルが生まれる、その全体を体感したいセラピストは多いのではないかと思う。地域と、この土地ならではの体験を求める人をつなぐことができたら」

といった声が聞かれました。

他にも「ねかべっつぃ」の高岡銅器による商品開発や、落ち葉の堆肥化事業など、多様な人が集まることで新たな活路がひらけていくことを感じさせながら、総会は終了しました。

こうした会議を重ね、さまざまな人と情報を共有し活動をするなかで、リジェネラティブ・ツーリズムの構築が少しずつ実現してきていることを実感しています。

同時に、私たちの活動はまだスタート地点に立ったばかりでもあります。

散居村の保全にはほんとうに多くの方々のご協力が必要であり、保全活動とは終わりのない活動の継続です。

ひきつづき活動を見守るとともに、今後も楽土庵、また散居村保全協議会の活動にご参加・ご協力いただけましたら幸いです。

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