自分たちの地域を知る、『あるこう、まなぼう。散居村ウォーク』レポート

2022.11.09 / 楽土庵について

灯台下暗し。地元のことほどよく知らない。多くの人が思い当たることではないでしょうか。

楽土庵が位置する砺波においても、気づかれていない地域の価値、また私たち自身も知らないことが多くあります。

ある秋の一日、私たちは砺波の郷土に詳しい尾田武雄さん(日本石仏協会理事/砺波地方の石仏研究の第一人者)と河合要子さん(ウィズケイ代表)のお二人を案内人にお迎えし、歩きながら土地について知る「散居村ウォーク」を実施しました。

※主催 (社)富山県西部観光社 水と匠

徒歩圏内にこれだけのみどころがあるとは…!
私たちもまた新しく、この地域の魅力を知る機会となりました。

丁寧な仕事にみる砺波人の精神性

地域の人に地域を知ってもらおうという趣旨の元、この日集まったのは、砺波市・小矢部市・高岡市・富山市などの近隣市町村にお住いの方々。

まずは「となみ散居村ミュージアム」にて、尾田さんを講師に散居村の基礎知識を学びます。

全国一の規模を誇る砺波平野の散居村。かつては加賀百万石の1/4のお米を生産していました。砺波ブランドとして挙げられるものには、チューリップ、稲、蚕種、硝煙があり、いずれも小さくて品質が良いものをつくってきたことが特徴といえます。

日本でチューリップを生産しているのは富山と新潟だけ。稲に関しては、かつてはお米の「種」である「種もみ」の9割(!)が砺波地方で生産されており、今でもシェアの5割を誇るのだそう。どれだけこの地方の人の仕事が丁寧で品質が高いか、裏付ける数字です。

散居村の成り立ちや歴史。アズマダチや屋敷林の特徴。寺院が99ヶ寺、神社が150社、さらに石仏も全国で一番数が多い(!)、信仰心の篤い土地柄などを教えていただいた後は、いよいよ外の散策です。

歩くのは大門(おおかど)地区。旧井波往来と中野往来にはさまれた歴史のある地域で、知るひとぞ知る手延べ麺、大門素麺の産地でもあります。

まず一行が注目したのは、散居村ミュージアムのアズマダチの裏手にある「灰納屋」。融雪剤や田んぼの肥料として使う灰を入れておく物置です。納屋が漆喰塗りに瓦葺きのとても立派な建物であることにも、砺波の人の精神性があらわれているようです。

豊かな水の流れ

敷地を出ると早々に現れる、美しい屋敷林を備えた民家。

そしてたわわに実った稲。上空ではツバメがたくさん飛び交っていました。南の方への移動を前に稲についた虫を食べて栄養を蓄えているのだそう。秋の田んぼにはツバメがたくさんいるんですね。

散居村の中には至るところに水路があり、滔々と水が流れています。

少し歩いたあと、一行は大門素麺の生産者かつ、きくらげ農家でもある松田さんを訪ねました。

まだ20代の松田さんは一旦東京で働いたのち、大門素麺の生産を継ぐため数年前に帰郷。素麺以外にも事業展開が必要だと、希少価値が高いきくらげの栽培を始めました。国産がほとんどないなかで、大きく肉厚、食べ応えがしっかりある松田さんのきくらげは、ミシュランの星つきレストランなどに卸されているそうです。

ワイン用のブドウ栽培にも挑戦中という松田さん。今後のいっそうの活躍が楽しみです。

趣ある大門素麺づくりのための納屋。扉の奥が作業場になっています。

続いて、昼食会場を目指して東へ歩いていくと突如現れる水門。上流からの流れを分岐させるための施設です。

ちょうど対岸にいらした農家さんが手を振ってくださいました。この方も大門素麺の生産者さんでもあります。

水路の水はまるで川。ほんとうに水の流れが豊かなんですね。

見るもの、食べるもの、すべてが郷土のもの

昼食は「農家レストラン大門」さんで、報恩講料理をいただきました。

女将さんのマイクスピーチによると、「農家レストラン大門」の立派なアズマダチは宮大工・藤井助之焏(ふじい すけのじょう)による建築なのだそう。もとは寄棟の茅葺きだった砺波地方の家を、現在の形のアズマダチにしたのが藤井助之焏だったのだとか(!)。助之焏は進取性に富んだ明治の名匠です。

アズマダチの中でも大きな家は明治後半~昭和初期のもので、その壮麗な姿にみんな憧れたのでしょう、戦後になると多くの家が寄棟から切妻屋根のアズマダチに変わっていきます。

建物を活かすことを多くの人に望まれたため、仕方なく料理屋を始めたのだ、と女将さんは冗談交じりにお話しくださいました。

また「報恩講」とは、親鸞聖人のご遺徳をしのび感謝する法要のこと。砺波地方ではお寺だけでなく、家庭でもお勤めされてきました。砺波散居村の家が大きいのは、報恩講など多くの人が集まる会合を家で行うためだったそうです。

具入りのがんもどき「丸山」、かき玉汁を寒天で固めた「べっこう」、ずいき=里芋の茎の部分をつかった「ずいきの白和え」、「大門素麺」など、郷土色豊かなお料理の数々。いずれも作る人の真心が感じられる味で、とてもおいしかったです。

昼食後には、裏庭にある屋敷蔵のなまこ壁も特別に見せていただきました。漆喰の立体的な迫力はひとつのアートピースのように見る人を惹きつけていました。

さて、「農家レストラン大門」の後ろ側の通りには、大門の石仏が群集する場所があります。もとは田んぼの中に散在していたものですが、区画基盤整理で田んぼの形が変わり、新たに道がつくられるにあたって、一箇所に集められました。 

こちらは聖徳太子2歳の像。庄川の扇頂付近で採掘される金谷石(かなやいし)のなかでも一番高級な青鼠石でつくられています。

明輪観音像。

不動明王像。

いずれも、しゃがむと目線があうようにつくられています。みおろす、または同じ目線ではなく、見上げておがむのが仏様と向き合う時の正しい姿勢なんですね。

お素麺もチューリップ球根も、この土地で

石仏群のすぐ隣には、元寺院を地域の人たちが改装してつくった「大門素麺資料館」があります。


麺になる、斬新な顔出しパネル。

こうしたジオラマまで、地域の方々の手作りです…!

細かな動きまで丁寧につくられており、じーんと胸が熱くなります。

大門素麺は糸のように麺に拠りをかけながら何度も何度も引き延ばすことで生まれる、強いコシが特徴です。とても手間のかかる工程をいまだ継承し、だからこその味わいを伝えていながら、ことさらにそれらを強調しないのもこの土地の人の特徴かもしれません。最近では原料になる小麦栽培も地域で行われているのだとか。ほんとうにコシがあっておいしいお素麺です。ぜひ富山にお出かけの際はご賞味くださいね。

続いては、富山県花卉球根農業協同組合さんへ。富山県内で生産されるチューリップの球根は必ず一度ここに集まってきます。

チューリップの球根の多くは輸入品であり、国産のものはごくわずか。日本では富山と新潟でしかつくっていません。理由は栽培が難しいから。きれいな花の咲く球根を育てるのには約2~3年もかかります。富山県花卉球根農業協同組合では4回もの圃場検査員による検査を行い、合格したものだけを商品として出荷しています。

富山のチューリップ球根は品質への信頼と品種の多さに定評があり、全国様々な施設やテーマパーク、公園のあいだで引く手数多なのだそう。

春の風物詩ともいえるチューリップ。その栽培と流通を支える組合も、ここにあったんですね。

最後は屋敷林のあるおうちのお庭をぐるりとみせていただき、散居村ミュージアムに帰ります。

半径約1キロを半日かけて歩いた「散居村ウォーク」。参加の方々からは

「あたりまえだと思っていたことがそうではないのだと気づけた。それを自分でも説明できるようになりたい」

「ここでつくられ、全国に出回っていくものがいくつもあることに驚いた」

「土地の人のものをいわない存在感に感銘をうけた。富山にはそういったものを育む土壌があると思う。みなさん深くて大きくて広いものを持っていらっしゃいますね」

「土地にあるもの全てが博物館であるよう。観光と文字の観は心から見る、本物を見るということだと思った」

「日常がほんとうに美しい、感性豊かに暮らせる場所だと感じた」

といった感想が寄せられました。

楽土庵が目指しているのは、遠くから訪れてくださる人も、地域の人も、それぞれの人がそれぞれに土地の力を受け取り、その土地ならではの良さに気づいていくことです。

これからもまた、様々な形でこうした催しを行なっていきたいと思います。

※楽土庵では、希望される宿泊者の方全員に、スタッフが散居村の一部である宿の周辺を歩いてご案内致します。記事内のコースとは場所が異なるものの、楽土庵のある地区「野村島」にも、平安時代(1133年)創建の神社や浄土真宗のお寺、お地蔵様や聖徳太子像を祀った小さな祠がなど、たくさんの見どころがございます。晴れた日には、立山連峰、牛岳、八乙女山、袴腰、白山といった霊山を見渡し、水路の水音を聴きながら、散居村集落の散歩を楽しむことができます。

どうぞお気軽にご所望くださいませ。

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