おいしいものが育まれる場所。『まなぼう、たべよう。散居村ランチ』レポート

2023.03.06 / 楽土庵について

楽土庵は、観光を地域の再生につなげる「サステナブル・ツーリズム / リジェネラティブ(再生)・トラベル」を展開する宿です。地域外の人を呼び寄せることで、地域内においてもこの土地が持つ価値に気づき、地域内外のさまざまな人たちと一緒に、散居村の保全をかなえていきたいと思っています。

ただ、ホテルとレストランの通常営業だけでは、近隣の方には特に、背景にある想いや活動の全体像をお伝えしきれません。そのため折々に、地域の方を対象に、私たちのとりくみを知っていただく機会を設けています。

2023年の1月28日、いちめんの雪景色がとても美しい冬の日。楽土庵のサステナブル・ツーリズムについてお伝えしながら、イルクリマの料理長がリゾットのつくりかたをお教えする料理教室&ランチ会を行いました。

土徳を伝える、水と匠の活動

この日の参加者は定員ぴったりの13名。砺波市、富山市、高岡市、お隣石川県から参加の方もみられました。「散居村ウォーク」に続いてご参加いただいた方も数名。私たちの活動をあたたかく見守ってくださっていると感じて、嬉しくなります。

まずはプロデューサーの林口より、楽土庵の母体である「一般社団法人富山県西部観光社 水と匠」(以下水と匠)の活動内容と、散居村のエコシステム、楽土庵のサステナブル・ツーリズムについて、お話させていただきました。

水と匠のミッションは、「富山の土徳を伝えること」です。

そのため水と匠では観光・地域商社を展開、職人の工房や酒蔵などをたずねる産業観光を造成、地域の産物を販売(オンラインストアはこちら)、国内外でPRする事業を行なっています。


ロンドンでの富山県ディスティネーションプロモーションの一環で、富山のお酒と富山にちなんだ料理を楽しむペアリングディナーを開催

同時に地域のディベロッパーとして、土徳を伝える場を創設。楽土庵は、土徳を感じられるものを凝縮させた、水と匠のフラッグシップホテルなのです。

さらに水と匠では現在、もうひとつの拠点として、城端別院善徳寺の研修道場を改修し「暮らしを学ぶ・泊まれる道場」をつくる事業にとりくんでいます。

道場では仏教や民藝、土地の文化についての講座を開設。お寺が本来もっていた文化芸術と学びの場としての性質を見つめ直し、様々な人が集える場に再構築していくものです。こちらは2023年秋の開業を目指して、鋭意準備中です。

散居村でサステナブル・ツーリズムを展開する理由

水と匠が富山県西部全体を活動エリアとするなかで、楽土庵は散居村を主題としてつくられました。それは散居村に、土徳が象徴的にあらわれていると考えるためです。

参考記事: 土徳について考える   

      生きられる文化生態景観 –散居村・アズマダチ・カイニョ–

散居村は220㎡におよぶ全域が生物多様性保全のために重要な里地里山に指定されています。

そこでは田畑、カイニョ(屋敷林)、人の暮らしのなかで物質がめぐる、循環型の社会が実現していました。

しかし現在は、農業などのなりわい、景観、伝統文化や手仕事、土徳と呼ばれる精神風土、そのいずれも、保全と継承が困難な状況にあります。

失ってはならないものを守れるように、かつての智慧に学びながら、現代に沿う形で次世代に伝えていきたい。そのために私たちは、観光業が地域の再生につながるサステナブルツーリズムを展開しています。

そのとりくみは、2022-2023年度の観光庁の「サステナブルな観光コンテンツ強化モデル事業」にも採択されています。

リジェネラティブ(再生的)なとりくみを

現在進行中の具体的なサステナブル・ツーリズムのとりくみには以下が挙げられます。

・宿泊料金の2%を散居村の保全活動団体の基金に

・散居村の魅力や課題を体感していただくアクティビティの開発と提供
・地元の伝統産業や工芸作家の器などを施設内で使用、オリジナル商品の開発と販売 

保全活動団体、行政、民間事業者、農家、自治会等からなる地域のネットワークづくり

・カイニョの剪定枝からのアロマオイルの抽出と商品開発

剪定枝から抽出したアロマオイル各種。「カイニョミックス」が特に好評でした。

そして今回の催しのテーマでもある、イルクリマでの散居村内で生産される穀物(小麦「ゆきちから」の手打ちパスタ、米粉を使ったお菓子、酒米「雄山錦」のリゾットなど)のメニュー開発と提供。

今後はこうした活動を広げながら、外国も含めた地域内外の人をまきこみながらコミュニティを形成し、ゆくゆくはナショナルトラストのような運動に発展していくことを目指しています。

「未来の人にこの景色を見る機会を失って欲しくないんです。それには、たくさんの方と一緒に取り組んでいかないといけません。ぜひ皆さまにも仲間になっていただけたら幸いです(林口)」

参加者の皆さまは熱心に耳を傾けてくださり、空間には真摯で前向きなエネルギーが満ちていました。

見て食べて学ぶ、おいしい料理の作り方

座学の後は、イルクリマの料理長・伊藤シェフによる料理教室「おいしいリゾットの作り方」。

今回のメニューは

・RISOTTO CON OSTRICA E SYUNGIKU  牡蠣と春菊のリゾット

・TAGLIOLINI ALLE PESCE E PORRO タリオリーニ、鮮魚と白葱和え の2つです。

イルクリマのオープンキッチンで、材料から料理の完成までを順に解説。

実際に料理をつくっていきながら、ちょっとしたコツや、素材の家庭で入手しやすいものへの代替など、自分で作る場合のポイントを丁寧にお伝えしました。

リゾットの材料
 イルクリマで提供するリゾットは、散居村で生産される酒米「雄山錦」を使用しています。水分量が少なく、粒が大きい、こっくりとした味わいはリゾットにぴったり。ただ個人で入手することは難しいため、今回料理教室では食用米の「てんたかく」を使用。ランチには「雄山錦」のリゾットをお出しして、食べ比べていただきました

ぐつぐつと煮込まれておいしそうなリゾット
リゾットを煮込む間にパスタのソースをつくります。ネギの青い部分はしっかり洗ってぬめりを取ると良いのだそう
 散居村で生産される小麦「ゆきちから」でつくるイルクリマの自家製パスタ。こちらも料理教室では手に入りやすい細麺スパゲッティーニを使い、ランチのタリオリーニと食べ比べていただきました

茹でたパスタとソースをからめて、ダイナミックにフライパンを振る乳化作業はパスタづくりのクライマックス。何度もダイナミックにパスタが舞います。

「添乗の仕事でイタリアによくいきますが、乳化作業をあんなにしっかりやってるイタリアの人っているのかしら?(一同笑)。イタリア料理をより美味しくつくるコツを教えてもらえた気がします(参加者)」

「普段から、オープンキッチンで料理されているのを眺めるのが好きなんです。リゾットはつきっきりで混ぜなくていいんだとか、いろんなティップスがとてもためになりました(参加者)」

完成品は全員で試食。うーんおいしい!

長らく辻調理師専門学校で講師を務め、フランス校にも出向していた経歴を持つ伊藤シェフ。ひとつひとつの作業の意味を明確に言葉にされているので、リゾットやパスタづくりはもちろん、日々の料理にも生かせる気づきがたくさんありました。

料理教室は参加の方にもスタッフにも大好評。ぜひまた開催したいと思います。

散居村の穀物のおいしさ

料理教室の後は、「リゾット」と「タリオリーニ」をメインとする散居村ランチを会食。

本日のメニューは

・前菜 アオリイカのよごし(「よごし」は富山の郷土料理)

・牡蠣と春菊の“酒米”リゾット

・氷見のヒラメとナガラ藻のタリオリーニ ラグー仕立て

・カフェ 焼き菓子

酒米は「雄山錦」、タリオリーニは小麦「ゆきちから」、焼き菓子は米粉と、いずれも散居村で生産される穀物を使っています。

新鮮な魚介や野菜とあいまって、穀物の豊穣な滋味が沁み渡ります。リゾットやパスタという料理だからこそ引き出される、しみじみとした穀物のおいしさを感じました。

土地の良さがいっそう身体に染み込んで

話に花を咲かせながらの楽しいお食事の時間。参加者の皆さまにも、参加の理由や、感想を教えていただきました。

「散居村の風景がとても好きなので、参加しました。ここでは食材、しつらえ、すべて想いを込められていることを感じて、ますます大好きになりました」

「私は富山が大好きで、一度も外に出たことがありません。今日は土地の良さがいっそう身体に沁み込んできて、幸せな時間でした。またぜひ料理教室をしてもらえたら嬉しいです」

「生まれも育ちも富山ですが、仕事柄20代は海外に出て色々なものをみてきました。それで今思うのは、富山市はコンパクトシティ、高岡は文化創造都市、散居村は自然との共生と、それぞれの特徴をいっそういかしていけたら素敵だなと。土徳という言葉の背景に色々なストーリーがありますね。それを解凍していくとおもしろいと感じました」

「雪深いし雨も多いし、若い頃はなんでこんなとこにと思ってたけど、最近は素敵だなと思えることや場所が多くなりました。楽土庵はそのひとつです。これからももっと、新しい富山を知ったり、触れたりしていきたいとおもっています」

調和する他力的な美しさ

最後はホテルの館内へ。ブティック水と匠ラウンジ、図書室紙・絹・土の各部屋をご案内しました。

ブティック水と匠。楽土庵オリジナルのアメニティや地域の作家の作品、民藝の大家の器物まで、土徳を伝えるものを取り揃えています
午後になると雲が切れて、気持ちよく晴れ間が広がりました
築120年のアズマダチを改修した宿泊棟。ラウンジでは芹沢銈介の作品がお客様をお迎えします
民藝や土地の風土に関する本などを収蔵するライブラリ
ライブラリにはさりげなく内藤礼の作品「ひと」が配されています
壁紙にハタノワタルの和紙を使用した「紙 SHI」の客室
部屋中にやわらかな光が満ちる「絹 KEN」の客室

土壁が力強い「土 DO」の客室。楽土庵では全3室の客室それぞれに、紙・絹・土という力ある天然素材を使っています。各素材の豊かな表情にご注目ください

各部屋それぞれに特徴的な素材、風景との調和、インテリアや器物などのしつらえ、オリジナルのアメニティに家具…すべてに物語があり、語り始めるときりがありません。

参加者の方々が熱心にメモをとりながら耳を傾けてくださっていたことが印象的でした。

「ここにしつらえたものの共通項は、どれも『他力的』であることです。他力的であるとは、自分で努力してもどうにもならないものを自覚したうえで、大きなものの力を借りて、感謝して生きる姿勢のこと。自分で、というのは大事な意思ですが、はからいがあまり強すぎるとかえって不自由になります。我を主張しないものは、はからいが前に出ないぶん、大きな力があらわれ、人はそこに美を感じとります。そうして人と自然が一緒につくったものは、国や時代が違っても、それぞれが調和するんです(林口)」

美しいと感じること、おいしいと感じること、なぜそうであるのか紐解いていくと、人と自然、いのちをめぐる根源的なところにたどり着くものだと思います。

美しいものも、おいしいものも、失くしたくありません。注意深くいないと、大切なものがどんどんと失われてしまいそうな現代。今あるものを慈しみながら、未来の人とも歓びをわかちあいたい。楽土庵は、そのためにできることをひとつずつ行なっていきます。

今後も折々にこうした催しを実施します。ぜひご参加いただけましたら幸いです。

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